●クロウフット氷河とボウ・レイク

レイク・ルイーズのゴンドラから降りて、一路ペイトー・レイクへ向かう。昨日通ったアイスフィールド・パークウェイを30分ほど戻る感じになる。

途中、左側にクロウフット氷河が見えてくる。「クロウフット」とは「カラスの足」のことで、氷河の形が、横向きにカラスの足跡を付けたような形なのだ。左側が付け根で、右側が3本の指のように分かれているはずなのだが、1940年代にいちばん下の氷河が欠落してしまい、現在はVサインを横にしたような形になっている。

しばらく行くと、急に左側に視界が開け、大きな湖が見える。これがボウ・レイクだ。バンフ側から行く時に見えるボウ・レイクの現われ方は感動的で、初めて訪れた時、私は思わず歓声を上げてしまったほどだ。大きな湖の背後に、氷河をたたえた山々。そして、湖畔の向こう側にあるNam-Ti-Jah Lodge(ナムタイジャー・ロッジ)の赤い屋根が、周囲の色に映えている。このロッジにはお土産屋があり、宿泊もできる。レンタカーの人はぜひ立ち寄ってみてほしい。ここから間近に仰ぎ見る山や氷河もなかなか迫力があるのだ。

ナムタイジャー・ロッジは、ブリュースターの観光バス・ツアーには通常含まれていないが(ボウ・レイクは車窓から眺められるので)、両親と旅行した時には、ペイトー・レイクの代わりにここに立ち寄った。私としてはペイトー・レイクのほうを両親に見せたかったので、なぜこちらになったのかドライバーに聞いてみたが、彼の答えは「お天気が悪かったので、こっちにした」というものだった。私は「天気が悪くても、ペイトー・レイクの色はきれいなんだけどなあ」と少々腑に落ちない思いでいたが、このあとペイトー・レイクに行って、その本当の理由を知ることになる。

●ペイトー・レイク

ロッキーで私が好きな湖の三指に入るペイトー・レイク。何がいいかって、まずあの色だ。どんなに多くの青や緑の絵の具を混ぜ合わせても、絶対に作れそうにないあの色。季節や見る時間帯によっても、色味が変わってくる。

それと湖の奥のほうに長く延びていく渓谷。ミスタヤ渓谷という名前だが、ミスタヤとは先住民の言葉でグリズリーを意味する。私も初めての取材の時、ここでグリズリーの親子を見ている。細長いペイトー・レイクは、先端が三股に分かれているような形で、その一つがこのミスタヤ渓谷を差しているように見える。ここにアイスフィールド・パークウェイが通っており、コロンビア大氷原に通じているわけだが、なんだか大自然が「この方向へ行け」と指差しているように見えてならない。

駐車場に行ってみて驚いた。なんとまだ雪に閉ざされているのだ。
ペイトー・レイクの展望台は、アイスフィールド・パークウェイ沿いで最も標高が高いボウ・サミット(2068m)の近くにあるため、他の場所より雪が溶けにくいらしい。なんとか個人の車の駐車場には入れたが、観光バスの駐車場に通じる道は、膝くらいの高さの雪で完全に埋っている。雪かきもしていない様子。もちろん観光バスは入れない。だからあの時、ドライバーはボウ・レイクに行ったのだ。

こういうの、日本的に考えるとたいへん不思議である。
時は6月で既に観光シーズンは始まっており、こうして多くの観光客が来ている。ブリュースターの観光バスも、もう運行している。ペイトー・レイクは有名な見どころの一つなので、日本だったら、地元の観光局の人たちなどが1日かけて雪かきをするだろう。実際、除雪車が一度通れば何とかなるくらいの量なのだ。
ところが、カナダでは、自然に雪が溶けるまで、絶対に手を加えないようなのである。こういうことに対して、カナダ人はたいへん頑固で、また国立公園の規則や法律は非常に厳しい。自然は、このくらい厳しく守っていかないと、すぐに破壊されてしまうものなのである。

駐車場から展望台へ行く遊歩道も完全に雪で埋っていたので、私たちはバス駐車場に通じる車道に誰かが作った雪の中の「溝」を通って、まずバス駐車場に行き、そこから展望台に向かった。その遊歩道にも雪がいっぱいだった。

お天気が悪くなっていたので、湖のきれいな「色」は期待していなかったのだが、展望台に着いて驚いた! ものすごい色をしている。今まで見たなかで、いちばん濃いブルー。人工的とも思えてしまうような、深く濃い青。私たちも周囲の人たちも、感嘆の声をあげ、しばしため息とともに見とれてしまった。
その展望台の下では、数匹のシマリスがちょろちょろ動き回っていた。

また雪の中の「溝」づたいに駐車場に戻ると、隣の車の女性が、この雪でおじけづいて展望台まで行かずに車中に残っていた男友達に話かけていた。
「あなたも行くべきだったわー。素晴しい色だったのよ。ロッキーの最高の景色を一つ見逃したわね」


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