●VIAに乗り込む

2000年6月4日午後4時20分、VIA駅に到着。駅は人でいっぱいだった。日本人のツアーらしき人たちもいる。こんなに混んでいて、ちゃんと座れるか、ちょっと心配になった。それでも、6月と言えばまだシーズン前なのだ。これが7・8月のピーク・シーズンになったら、どんなふうになるんだろう。その時期に旅行を計画している人は、早めにチケットを取り、早めに駅に行くほうがいい。

私はVIAに乗るのは4回目だが、それでもやっぱり記念撮影なんぞをしてしまう。駅の外観もなかなか絵になるし、構内だったら中央にある時計の前が人気だ。
最初にVIAに乗ったのは、忘れもしない、初めての海外一人旅をした時のことだった。その時も、ドキドキしながらこの大時計の前に立った。当時、VIA鉄道は、定期便がバンフまで通っていたのである(現在は、カムループスで1泊する豪華列車「ロッキー・マウンテニア号」のみが、夏期バンフへ運行)。

花のOLだった私は、なんと贅沢にもルーメット(個室寝台)に乗ってしまった。一人旅の安全を考えたのが第一の理由だったが、この体験は楽しくて楽しくて、今だに忘れられない。ルーメットはコンパクトに、しかも非常に合理的にできていて、快適だった。たたみ2畳ほどの室内には、ソファと洗面台が付いているが、洗面台の下にトイレが隠されており、ベッドは壁に収納されている。この一人だけの空間で、好き勝手な格好をして、ひたすら外の景色を眺めているのが、ただただ楽しかった。

ルーメットにはフルコースの夕食が付いている。2回に分けられるため、発車してまもなく、若い車掌が食事時間の希望(1回目か2回目か)を聞きに来た。この人がこの車両の担当だなと思い、希望時間を告げるとともにチップをあげた。こんなところでチップをあげる客はいないようだが、なんせ初めての一人旅、いざという時に助けてくれそうな人を、なるべくつくっておいたほうがいい。

ダイニング・カーでの夕食は、なかなか美味しかったが、量はさすがに多くて食べきれなかった。そんなお腹パンパンの私に、ウエイターが何度もやってきてはコーヒーをついでくれる。ふと見たら、さっきの車掌さんだった。彼は私に目配せをしながら、まだほとんど量が減っていないカップへ、またコーヒーを注いでいった。
・・・チップの効果だった。

さて、シュテファンはVIAに乗るのは今回初めてだが、さすがにヨーロッパ人だけあって、鉄道の旅はお手のものだ。スイス自体も鉄道が発達していて、それこそ国内どこへでも行けてしまう。私も何度か乗ったことがあるが、2等車でも広くて奇麗なので驚いた。しかも車窓の景色は絵のように美しいのである。

実は、昨年の夏、ほぼ1ヵ月かけて、北欧を中心に7ヵ国を鉄道で旅した(こんなことを書くと旅行ばっかりしているようだが、たまたま大旅行が2年続いただけで、それ意外の日々は、地味に質素に暮らしているのである)。この旅もめちゃくちゃ面白く、なおかつ克明に記録を取ってあるので、「カナダ横断旅行」が完結したら、連載を始めようかと思っている。
(そのためには、早く先へ進まねば・・・^_^;)

昨年経験したヨーロッパの鉄道とカナダの鉄道で、いちばん大きな違いは「駅」ではないかと思う。行ったことのある方ならご存じと思うが、ヨーロッパのターミナル駅は、とにかく広くて大きくて、あのドームのような高い天井が特徴だ。そして、多くの路線が、国内ではなく国外に向かっている。プラットホームにはさまざまな国の旅行者が行きかい、出会いと別れの歴史が繰り返された“重み”と“深み”がある。

それに比べたら、カナダの西の起点とはいえ、バンクーバー駅は小さくてアッサリしたもんである。本数だって、毎日ではなく、週3便だ。
しかし、それは、カナダ1国だけを横断するのに(しかも、端から端ではなく、バンクーバーからトロント間だけで)まる3日以上は優にかかるからだと思うと、ヨーロッパの鉄道とはまた違ったダイナミックな魅力が見えてくる。これが大陸横断鉄道の醍醐味であろう。

出発時刻の30分前となり、いよいよ電車に乗り込む。ジャスパー行きの乗客の車両はいちばん前だ。電車はやたら長い。延々歩きながらも心はワクワク。遠足前の子供の気分とは、こういうことを言うのだろう。
荷物は全部持ち込みにした。シュテファンは普通サイズのリュックが2つだけ。私はさすがに小型のスーツケースも必要になったが、2人でこれだけ少ないと移動がラクである。

席の心配をしていたが、なんのことはない、車内はガラガラだった。やはりまだシーズン前なのだ。
ビンボー旅行の今回、席はもちろんコーチシート(リクライニングになる座席)である。これだけ空いていると、夜寝る時に、2座席使って横になれるので、かなり体がラクになる。それにしても、ああ、ルーメットを使えた時代がなつかしい・・・。

バンクーバーを出ると、電車はずーっとフレーザー川に沿って、内陸に入っていく。フレーザー川は、奥地で切り出した材木を運搬するのに重要なルートで、さかのぼって行くにつれ、川に材木が浮かんでいる箇所が多くなる。かなり上流まで、川幅はたいへん広く、開拓時代から重要な水路であったことがうかがえる。

今日は朝からろくに食事もせず、ばたばたと準備をしていたため、気がついたら空腹で倒れそうになっていた。7時頃、食堂車に行く。途中の車両にいた日本人のツアー客が、幕の内のようなお弁当を広げていて、日本食大好きのシュテファンがうらやましそうに見ていたので笑った。
私たちは景色を肴に、まずビールで旅のスタートの祝杯をあげ、初めてほっと落ち着いた気分になれた。私がオーダーしたのはサーモン・フィレ。味はまあまあだ。
驚いたことに、ビールは座席でもOKだった。BC州ではアルコール規制が厳しく、公共の場では飲めないため(花見酒もビーチでのビールも禁止)、VIAの座席でも駄目かと思っていたのだ。逆に、展望車では飲酒禁止だった。煙草ももちろん駄目。喫煙者にとっては、肩身が狭い国である。

私のお気に入りだった“非常用ハンマー” 緊急事態が起こった時は、これで窓ガラスをたたき割っていいのである。ちょっと使ってみたかったりして…

午後8時、電車はかなり内陸に入ってきた。山がグンと近くなる。30分もすると、もう完全に山の中に入ってしまった。車内アナウンスがあり、食堂車も売店もクローズになることを告げている。もう何も買えない。あとは寝るだけ。
しかし9時半を過ぎても、外はめちゃくちゃ明るい。今夜は眠れるだろうか?


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