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30歳からの海外留学
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●ホームステイ(5)‥‥料理事件 後編

Yさんがつくった台湾ディナーの数日後、帰宅すると、またもやホストマザーが、キッチンでため息をついていた・・・
なんだか泣きそうな顔をしている。私は、その顔をのぞき込むようにして聞いた。
「どうしたの…?」

「ミツヨ、これを見て」
彼女はまた大きくため息をつき、床を指差した。
そこには、黒っぽい途切れた円のような汚れが付いていた。

実はこの汚れには、私も気がついていた。が、いつ付いたかは知らなかった。
ホストマザーがまたゴシゴシやって落とさなければならないなぁと思い、週末ちょっと手伝おうかなと思っていたのだ。
しかし、次の言葉で、またぶっ飛んでしまうほど驚いた。

「このあいだ料理した時に、Yさんが沸騰した鍋をここに置いちゃったのよ」

ええーーーっっっ!!??
ってことは、これは汚れじゃなくて・・・

私は思わず床に這いつくばって、その黒いところを触ってみた。
それは“汚れ”ではなくて、熱い鍋底で床材が無残にも“溶けて変形してしまった跡”だった。
「ええ〜、そうなのお〜?」という顔で見上げると、ホストマザーが「そうなのよ」という感じで無言でうなづき返した。

詳しい事情はこうだった。
先日、お料理をしていた時、スープをつくっていた鍋が、沸騰して吹きこぼれてしまったらしいのだ。
カナダの調理台は、ガスではなく電気なので、低温にするようツマミをひねっても、ガスのようにすぐには温度が下がらない。これに慣れるには、私もしばらく時間がかかった。沸騰したらすぐ火を止めるという料理の場合は、沸騰直前にツマミをoffにするか(余熱でちょうど沸騰する)、沸騰したらすぐ鍋をおろすかしかない。だから、Yさんがあわてた様子はよく分かるのだが・・・

おそらく自炊をして鍋が吹きこぼれた経験がある人なら、ほとんどが流し台のシンクの中に置くと思うのだ。あるいは、空いていたら隣のコンロに移すか、ステンレスの調理台の上に一時的に置くなどの対処をするはず。一目で“熱には弱い素材”と分かる床の上には置かないだろう。
それに、いくら熱に弱そうといっても、キッチンの床に、一瞬で溶けるような素材は使わないはず。だから、一度鍋を置いても、すぐにどかせば無傷だったと思うのだ。おそらくYさんは、しばらくそのまま鍋を放置しておいたのだろうと思う。

床の状態は悲惨だった。
鍋底の形に溶けてへこみ、そのまわりは盛り上がっていた。つまり、もう明らかなデコボコができていたのだ。こればっかりは、ホストマザーがいくら床を磨いても、直せるものではなかった。
その上、黒い色は、熱で床材そのものが変色してしまったものだった。もし鍋底のコゲが付いたものだったら、強力な洗剤で落とせたかもしれなかったが、材質そのものの変色となると、ナイフか何かで削り取るしかなかった。しかし、変色した範囲はけっこう深そうだった。
床を元のようにするには、全面的に貼り替えるしかなかった。

週末のたびに、一生懸命床を磨いていたホストマザーの姿が思い出され、彼女がさぞかし落胆しているだろうと思い、私はすぐにその場を離れることができなかった。
一緒にテーブルまで行って、腰を下ろし、今度は2人でため息をついた。

「あの日、私が帰ってきたら、もうあの跡が付いていたの。Yさんったら、まだ他の料理は用意できていないのに、もうスープだけ器に入れてテーブルに置いてあったのよ」
そうホストマザーは言って、私たちは顔を見合わせ、力なく笑った。別にYさんをあざ笑ったわけではない。「まったくしょうがないわねえ」というような笑いだった。もう情けない笑いしか出てこなかった。

ふつう、スープや味噌汁は熱い状態のものをサーブする。食事をする人たちが全員席についてから、器に取り分け始めたりするものだが、Yさんは先にスープだけテーブルに置いていたのだそうだ。私が飲んだ時、まだ熱かったのは、帰ってきたホストマザーのアドバイスで、温め直したからだった。

結局、この件も、シルクの白いスカートと同じで、おこるにおこれず、溶けてしまった床の修理代を請求するわけにもいかず、ホストマザーはため息をつくしかなかった。

ところで、このホームステイの状態を、Yさんがどう言っていたかというと、「ホストマザーは私に対してフレンドリーじゃない」だった。
これは夏の間ステイしていた韓国の女の子から聞いた話だ。彼女たちは部屋が隣同士だったので、時々話をしていたらしい。私は「とんでもない!」と思ったが、その子に事情を全部話しても仕方ないので、特には言わなかった。

さらにYさんは、ホームステイのエージェントには、「私はいつもホストマザーから注意ばかりされて、毎日ビクビクしている」と話していた。
たまたまオフィスに遊びに行った私は、担当者からこの話をされ、さすがにこの時は、起こったことをすべて話した。というのは、Yさんサイドからしか情報を得ていない担当者は、多分にYさんに同情的だったからだ。
私の話を聞いて、事情をすべて飲み込んだ担当者の女性は、「それじゃあホストマザーさん、大損害じゃない」と言った。この「大損害」という言い方が、なんだかおかしかったが、とりあえずホストマザーへの誤解は溶けてホッとした。

しかし、このように周りの人に話していたということは、Yさんは、自分がしたことで何がまずかったかということを、本当には分かっていなかったのではないかと思う。

ただ、彼女のおかげで、自立した生活経験・社会経験があるということは、一人暮しのみならず、ホームステイという場でもこんなに大きな違いが出てくるものなのだということが、よーく分かった。
この点は、Yさんに感謝しなければならないかも‥‥