●留学の危機
自分が30代になっているということは、親もそれなりに高齢になってきているということだ。それが、残念ながら、30代留学で増える心配事の一つである。
私の友人で、こんな分析をしたヤツがいる。
「親が晩婚だと、子も晩婚」
世間一般はどうか知らないが、私も彼女も確かにあてはまっている(2人の例だけで分析したわけじゃないと思うけど)。
つまり私の両親は、同世代の友人の親よりさらに年が上だった。
ただ、幸いなことに2人とも健康で、大病や大ケガをしたことはなかった。病院にもほとんど縁がなかった。あの時までは・・・
来春には旅立とうと決心していた年の師走に入って間もなく、父が倒れた。心筋梗塞だった。深夜に入院、そして1週間は絶対安静だった。
入院した翌朝、担当医から聞かされた父の病状に、体が震えそうになるのをやっとこらえた。隣にいる母に悟られたくなかったからだ。
大変なことになった、父の命があぶない、助かってもこの先ずっと危険と隣合わせで生活しなければならないかもしれない。
・・・初めて親の年齢を意識した。
もう留学どころじゃなかった。
親か留学かと言われたら、私は何の迷いもなく親を取る。そんなことを書くと、すごく親孝行な娘と思われそうだが、実際はまったく違う。親不孝ばかりしている。それに小さい頃からいつも親に反抗的で、決して仲のいい親子だったわけではない。
しかし、そういうことも何も、この年齢になると、どこか超えてしまって、もっと客観的に親と自分を見られるようになる。
今から私が両親にしてあげられること、あるいは一緒にできることには、時間的に限りがある。だが、留学には時間的制限はない。自分の“気の持ちよう”一つである。また行ける時が来たら、熟年留学をすればいいのだ。
とりあえず、留学準備はストップした。
留学だけでなく、3日後に出発するはずだったチュニジア取材もキャンセルした。いろいろ下準備をしていたので、行きたいのは山々だったが、その間に父に何かあったら大変だ。出版社側も理解してくれ、幸い代わりのライターさんもすぐ見つかった。迷惑をかけずにすんで、ひとまずほっとした。
お医者さんの説明だけでは理解不充分だったので、心筋梗塞や高血圧に関する本を買ってきて読んだ。そして、父の体に何が起こったのか、だんだん分かってきた。年齢、老い、衰え、病気‥‥、今までどこか人事のように思ってきたことが、今、すべて目の前にあった。
それから病院に通う日々が始まった。
父がどこまで回復するか、あるいはしないのか、それによって家族の生活はかなり変化する。
この時、私の未来は真っ白だった。